研究テーマ:中小製造業における新たな経営品質の形成モデル構想に関する研究

平成29年度(2017年度) 宮城大学大学院博士論文
事業構想学研究科 博士後期課程 今野彰三
研究期間:2015年4月~2018年3月

【要旨】

日本の製造業の問題点は、世界で高く評価される技術力・生産力を保持しながら、それが利益を生まず、業績に結び付かないことである。このように企業弱体化に危機感を認めつつも、日本の製造業の‘経営’が、従前と変化していない事は、より問題を深刻化させている。この経営の分析に際しては、企業優位性が重要な要素となり得る。そしてその企業優位性は企業競争力の証となる点に意を払うべきと考える。

日本の企業総数の99.7%は中小企業からなっている。雇用でも約7割を占めている。中小企業は多くの付加価値を生み出し、サプライチェーンの重要な役目を担っている。我が国の産業の基盤を中小企業は支えている。その企業の維持と成長、維持、衰退の陰で、中小企業が大企業との狭間で、モノ作りにどのように関与しているのか、外注という大企業の単なる応援製造部隊なのか、その実体に関しての理解は乏しい。このような不利な状況の基で、中小製造業でも成功するのは何故だろうかとの疑問を抱いたのが問題意識の始めである。これらの事実から導きだされるのは、研ぎ澄まされた「近代的な経営学手法」は、必ずしも必要条件とはなりえないとの推論を立てた。ここで重要なのは、企業内での事業目利き、評価である。

企業品質に関して、その持続的な向上への考え方が注目されてきた。この組織全体を対象とし、顧客視点からの経営全体の質を命題とした、日本経営品質賞及びマルコム・ボルドリッチ賞という表彰制度として結実した。これら国家的、世界的な表彰制度は、ある時点での経営状態の評価分析理論としての「経営品質」という考え方は卓見を示している。しかし企業は継続させねばならないし、持続もさせねばならない。この企業存続と時代変化に対応する目的からも「経営品質」には、目的・目標をもち、未来を志向する企業品質を、より具体的に、より明確にする必要があり、再考の余地があるように思われる。現在広くわが国で注目されている「経営品質」を検証すると、その本来意図した理論的背景や意味が、その目的に添って遂行されていない現実が散見される。確かに経営品質に関する議論は、その評価基準をめぐり活発化している。しかし評価基準は旧態依然としており、固定的で思想や方法論が不鮮明との議論もある。本研究で目指したテーマは、中小製造業において、企業の戦略性及び企業の品質の向上を志向する新たな経営品質という考え方を論究していく。とくに経営品質は、より強い目標意識を志向すべきとの議論の筋道を確認しておきたい。すなわち経営品質での評価の重要な要素は、企業優位性を基軸として将来を見通す、最適経営手法を見つけ出すことであると言える。さらに理論と実践の乖離が否めない。むしろ理論と実践とは、本来別々のものではなく、両立を基本にとらえることが必要である。要するに「中小製造業が日常遂行する‘経営品質’について、その実態を把握し理論的体系化と実践的な進化」により、その目指すべき方向性における展望を示すことが、今求められている。このようにこれまでの経営品質の理念を踏まえた目的・目標を、より明確に訴求する新たな「経営品質」の示唆に至る。

図 企業優位性形成のメカニズム

本研究の目的遂行の枠組みとして、第一に国内の中小製造業での企業優位性を探るためフィールド調査と参与観察を通じて「経営品質」について現状の把握と課題の抽出を行った。第二にその対応策の検討を通じて、企業の戦略性及び経営品質の最適志向について検討を加える。第三に従来の経営品質理論をより強固にするために新たな枠組みの構築について考える。第四に中小製造業として主体的な経営活動を育成する品質経営の形成モデルの構築を考察する。経営品質の調査に際して当該企業の「技術的な優位性が企業の競争力維持に重要な意義をもつ」といわれている。

本研究の構成のあらましは以下の通りである。

まず第一章においては先行研究と品質概念の変遷を重ね合わせ、品質概念の歴史的変遷を認識した。その上で本来の理論上の“経営品質”の妥当性を「正(せい)の妥当性」として5項目に整理して、その理論的基盤を明確に示した点に評価を加える。一方、理論上の“経営品質”の意図に反した解釈の違いによる「負(ふ)の誤解」を確認する。第二章においては特に日本経営品質賞が国家的評価基準の意義として設定された“経営品質”には二つの課題を指摘する。第一に、制度上の不完全性、第二に、実践上の諸制約にあるとの認識を取り上げる。第三章においては、“経営品質”におけるこれら正と負の特質の本質を、その「評価アセスメント」の仕組みの評価と実行の評価により、“経営品質”はその評価方法として、仕組みの評価そして実行の評価に分けられる点を論究する。第四章ではこれら課題の本質を、あらかじめセットされた内部統制を基本とするルールブックに加えて、未来志向、全体志向を基本とした“新たな経営品質”への基本軸の見直しを行い、その有効性と成立要件について検討を加える。その結果、新たな経営品質が、本論文の目的とする「経営品質の有効性を高めるための評価、制約の方策の導出」の適合性が高いことを明らかにする。第五章、第六章においては中小製造業の視点から新たな経営品質の成立要件としての構造的な評価として企業優位性を事例調査により検証する。第七章では、新たな経営品質として、「品質経営」を提唱しその構造的分析を事例調査からの示唆をもとに検証する。第八章ではこれまでの静態的経営品質が経営革新への成熟度評価としての高い評価を維持するのは当然であるとの認識を確認する。この前提に立ち、この本来あるべき動態的経営品質の理論と実践の相互進化を、制度上及び解釈上の課題としての取り組む事は不可避である事を、事例を通じて再確認を行う事とする。‘おわりに’では中小製造業における再起、再生の源となるためには「企業優位性」が新たな経営品質としての「品質経営」の有効性を明らかにしする。

以上が本稿の流れである。

いずれ成果公開の機会は一つの通過点であると考える。ここでさらに多くの事を学んで、成長を遂げたいとも考えている。繰り返しのチャンスがあれば、更なるレベルを図って行きたい。筆者は今後共出来うる限りの機会をとらえて、数多くの同業の研究者及び実践者たちと交わりたいと考える。この事で多くの経営者が成長し、企業の競争力をますます高め、世界に通ずる中小製造業であり続けられるようになる事を期待するものである。

【関連書籍・論文・学会報告】

・書籍

『企業優位性分析から見た来るべき企業品質への展望 ~中小製造業の再興への道~』、今野彰三、電子書籍、2018年10月

・論文

「中小製造業における品質経営の実態と課題」(査読付)(今野彰三、実践経営学会:年次報告書No.53、2015年10月)

「Management Issues and New Perspective of Quality Management of Small and Medium-Sized Enterprises in Japan(査読付)」(共著:今野彰三・藤原正樹 2016年12月 Journal of Management Science 2016.Vol.7 PP.18-25)

・プロジェクト実績・作品等

参与観察・経営参加(顧問)として、小林工業㈱、㈱P&A、日東建設㈱、の3社にて定点観測に基づく実測知を積算(2018)