研究期間:2013年10月~2015年3月

【共同研究団体】
宮城県中小企業団体中央会
宮城大学 事業構想学部 藤原正樹研究室、高力美由紀研究室
株式会社日立ソリューションズ東日本

 中小企業のIT活用に関する調査によれば、中小企業においてもパソコン導入やインターネット環境などは、ほぼ100%整備されており、会計などの業務ソフトでも80%前後が導入している(IPA, 2012)。他方で、「競争力のある製品・サービス」や「新規顧客の拡大」など重要な経営課題と、IT投資の目的が必ずしも一致していない点も指摘されている。経営課題解決のためのIT投資ではなく、個別業務の効率化を目的とする汎用パッケージの導入にとどまっているため、IT投資の効果が出ていないことが推察される(藤原・大串, 2013)。
他方で、クラウドサービスの進展やモバイル端末など新たなIT環境の登場は、資金力や人材に制約の多い中小企業においても攻めのIT活用が可能な環境を生み出している。中小企業の経営管理に貢献する新たなソリューションをクラウドサービスとして提供することが可能となっている。
本研究は、宮城県の水産・食品加工中小企業を対象とした実証研究により、中小企業の経営管理の強化に貢献するクラウドサービスを構想することを目的としている。

研究の流れ

年月~年月 調査・研究内容
2013年10月
~2014年3月
水産練製品製造業8社へのヒヤリング
経営課題の抽出とIT活用案の作成
2014年4月
~2014年9月
水産・食品加工業の経営課題とIT活用案を元に、食品加工業15社への追加ヒヤリングを行い、IT活用案の有効性を検証する。
ソリューション案の一つである「製品別原価計算」の有効性評価のため、ヒヤリング先2社から実データの提供を受け実証研究を行う。
2014年10月
~2015年3月
製品別原価計算を行うための電子データ収集方法の検討を行う。
工場内での行動観察を通じて、必要データの種類とその電子的収集方法を検討する。

●研究の結果
本調査・研究の結果明らかになったことは以下の3点である。
第1は、水産・食品加工製造中小企業に共通する経営課題を明らかにしたことである。販路の確保、人材育成・確保、商品開発などを重点経営課題として認識している企業がほとんどであった(宮崎・他, 2014a)。これは、2.3で示した東北経済産業局のアンケート結果とほぼ同じ内容であった。
第2は、原価管理、製造工程作業支援、売上分析等のITソリューション案が、ヒヤリングを行った経営者の方から多くの評価を受けたことである。今回、ヒヤリング結果を受けて、経営課題解決のための15のITソリューション案を作成し、ヒヤリング先経営者の方に評価を依頼した。その結果、上記のソリューション案が評価を受けた。
第3は、原価管理に着目し、製品別原価管理の有効性を検証したことである。「売上げは上がっているが利益が出ない」という現状を解明すべく、取引データの詳細を集計し製品別製造原価を算出したところ、製品単位に大きな利益率の差があることが解った(宮崎・他, 2014b)。これらのデータを活用することにより、大幅な収支改善が実現できることが判明したのである。

【報告資料】
・東北地域中小企業へのIT導入推進報告書2014年11月
・東北地域中小企業へのIT導入推進のための調査研究成果報告書2015年5月
・中小企業向けクラウドサービスの検討 IT経営ジャーナルVol2 2015年8月