研究期間:2013年4月~2016年3月
注:本研究は、文部科学省(独立行政法人日本学術振興会)の科研費(25380470 代表:藤原正樹)の助成を得たものである。

共同研究者:宮城大学 藤原正樹
兵庫県立大学 有馬昌宏
宮城大学 高力美由紀

 東日本大震災からの復興においては,被災地産業の復活が重要であることは論を待たない。津波被害を受けた沿岸部においては,水産・食品加工業が重要な産業となっており,その再生が求められている。震災から4年を経て,被災地中小水産・食品加工業の最大の経営課題は販路の開拓である。加工場の再建などで生産量は復活しつつあるが,震災で失った販路を再確保することは死活問題となっている。
我々のこれまでの研究において,以下の3点が明らかになった。
第1は,被災地中小企業の復興においては,首都圏など大消費地を販売先とすることが必要である。消費地としての東北は市場規模として限界がある。第2は,商品開発力やマーケティング力が乏しい被災地の中小企業が単独で一般消費者向け市場開拓に取り組むことは限界がある。被災地の企業と消費地の企業が連携し,商品開発などを伴いながら新市場開拓を行う方策の有効性が高い。第3は,震災から4年が経過した今日でも,消費を通じて復興を支援しようという一般消費者の意識は継続している。
他方,被災地の中小企業においては,震災前の販売先との取引が復活できない現状を踏まえて,新たな販路開拓に向けた取り組みが行われている。具体的には,①新たな流通仲介事業者による新販売経路構築に向けた取り組み,②震災復興ファンドによる消費地と被災地経営者のつながり,③インターネット通販への着手,④被災地の中小企業と消費地の大企業とのビジネスマッチングなどである。これらの取り組みは,被災地の企業と消費地の企業が連携し商品開発や販路開拓を行うことが被災地中小企業の市場拡大に取って有効であることを示している。他方で,現状では一部の企業による部分的な取り組みに止まっており量的な取引拡大に至っていない。
我々は,これらの取り組みを発展させ,被災地の中小企業にとって安定的な販路を開拓する試みとして,インターネット上の開かれたeマーケットプレイスとして「東日本大震災復興支援BtoBtoC(Business to Business to Consumer)型取引所(仮称)」を構想した(図)。その特徴は,以下の3点である。

(1)インターネットを介して,被災地の中小企業と消費地の企業が登録された企業間で継続的な取引を行うBtoB取引の機能
(2)東北応援コミュニティとして,被災地の企業と消費地企業,一般消費者をつなぐネット上のオープンなコミュニティ
(3)東北復興産品認証マーク(仮称)制度として,被災地で生産・製造された商品,あるいは被災地産品を原材料とした商品に対して,認証マークを発行し,被災地由来商品の販路開拓を支援する

この取引所の有効性を検証するために,宮城県を中心に中小水産・食品加工業へのヒヤリング,続いて,全国の一般消費者を対象にしたWebアンケートを実施した。
宮城県事業者へのヒヤリングでは,取引所の開設について,「条件がそろえば利用する」との反応がほとんどであり,その条件として,①志(こころざし)に共感があること,②信頼できる企業であること,③安定的・継続的な取引が出来ることなどの意見が多数を占めていた。
一般消費者向けWebアンケートにおいては,回答者の50%強が,食材・食品を購入,または外食する際に東北被災地からの食材・食品であることを意識すると答えており,同じく50%程度の回答者が東北被災地の食品を実際に購入していると答えている。認証マーク制度については,60%近くの人が意義あると評価している。
これらの検証結果により明らかになったことは,第1に,一般消費者は現在も消費を通じて東北の復興を支援しようという意識を持っており,復興支援取引所や認証マーク制度に対する支持と期待があることである。東北由来商品を支持し,購入する意思がありつつも,購入のための機会が十分でないというアンケートで示された現状を踏まえると,今回示した施策が東北産品の販路開拓に有効であることが示されたといえる。第2に明らかになった点は,制度としては有効であるが,それを実行するには多くの課題があることである。eマーケットプレイスの成功要因として示した①取引所の運営主体,参加企業間の信頼関係構築,②核となるメンバーの人的ネットワーク形成,という二点をどのように醸成していくかは課題として判明した段階である。

【関連論文・学会報告】
震災復興支援eマーケットプレイスの成功要因分析 : 東日本大震災・被災地中小企業の復興課題
http://ci.nii.ac.jp/naid/40020412800

東北復興支援型eビジネスモデルの構想
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasmin/2013f/0/2013f_289/_article/-char/ja/