研究テーマ:情報システムプロジェクトを成功に導く経営者の支援行動に関する研究

平成27年度(2015年度) 宮城大学大学院博士論文
事業構想学研究科 博士後期課程 栗山 敏

【要旨】

情報システム構築プロジェクトの成功率は、従来から3割程度と言われてきた。その原因究明は主にプロジェクト・マネジメントといった構築系の研究領域から進められており、経営の視点に基づく戦略系の研究アプローチは限定的であった。また、経営者の関与の必要性はジャーナリズムの分野では従来から指摘されてきたが、アカデミズムの分野における理論的な研究は十分とは言えない。経営者の視点からプロジェクトの成否を評価し、経営者のプロジェクトへの関与を確かなものにすることによって、プロジェクトの成功率を高め、IT投資マネジメントの発展に寄与することが期待される。

筆者はITベンダーでの長年の勤務を通じて、成功率が3割程度とされるプロジェクトの現状に問題意識を抱いてきた。近年のプロジェクトは経営戦略を反映したものが増加しており、その成否は企業の業績に直結する。このようなプロジェクトの成功率を向上させるための経営者の支援行動を明らかにしたいと考えたことが本論文の動機である。

 

図 プロジェクトの「成功」と「失敗」の再定義

本論文ではプロジェクトを成功に導く経営者の支援行動の明確化、およびそのような支援行動の促進策の導出を目的とする。そのためにまず、プロジェクト・マネジメントなどの構築系とIT投資マネジメントなどの戦略系を架橋する研究スコープを設定し、文献調査によってプロジェクトを成功に導く経営者の支援行動に関する仮説を導出する。次に事例企業へのインタビューで得られた一次データに基づき、当該仮説の妥当性を検証する。

文献調査から、「不確実な事態への適切な対処」といった経営者の支援行動に関する4領域、10項目の仮説が導出された。またそれらの仮説と事例を突合した結果、仮説の妥当性は検証された。次に経営者の支援行動の促進策を組織理論に求め、利害の一本化が有効であること、およびその具体策として成果報酬型契約が適していることを理論研究によって検証した。更に文献調査に基づき、成果報酬型契約の成立要件について、「成果報酬型契約は継続的な取引を前提にしないと有効に機能しない」といった14項目の仮説を導出し、ITベンダーへの事例調査とインタビューを通じてその妥当性を検証した。その結果、ITベンダーの視点からはその妥当性は検証され、加えて新たな知見も6項目見出された。

以上の研究から4領域、10項目のプロジェクトを成功に導く経営者の支援行動が明らかになった。加えて成果報酬型契約がそれらの支援行動を促進することが確認され、成果報酬型契約の成立要件が合計20項目確認された。一方、ユーザー企業の視点からの成果報酬型契約の成立要件の確認、失敗事例の調査などは今後の課題として残された。

【関連書籍・論文・学会報告】

・関連する主な論文

「経営者の情報システムプロジェクトへの支援行動を促進する要因に関する研究 (査読付)」(共著:栗山敏・藤原正樹 2015年11月 日本経営システム学会誌Vol.32,No.2 PP.165-174

「受託開発ソフトウェア業における成果報酬型契約の成立要件に関する事例研究(査読付)」(共著:栗山敏・藤原正樹 2015年1月 ビジネスマネジメント研究第11号(日本ビジネスマネジメント学会誌)PP.37-54

・書籍

『情報システムを成功に導く経営者の支援行動 ~失敗する情報システム構築に共通する社長の行動~』、栗山 敏、白桃書房、2013年7月 【第29回(2013年度)テレコム社会科学賞奨励賞を受賞】