クルマの未来:プリウスがつぶやく

今回は、車の未来について書きます。
少し古い記事で恐縮ですが、2011年5月23日にトヨタ自動車とクラウド事業者であるセールスフォース・ドットコムとの提携の話が出ていました。トヨタが「トヨタフレンド」というソーシャルネットワークサービスを立ち上げ、セールスフォースがそれを支えるというものです。「トヨタフレンド」では、クルマがアイデンティティを持って人と対話をします。「クルマは、モバイルデバイスになりつつある」のです。

■ 「いつかは、クラウン」
自動車産業は現在微妙な位置にあります。先進国においては大幅な需要増は望めず、アジアなど新興国市場が次の発展のカギになっているようです。しかし、車市場は基本的に家電製品と同じく成熟市場といえます。移動手段と位置付けたら技術革新の範囲は限定されます。電気自動車に対する注目は高まっていますが、しょせんは移動手段です。公共交通機関が発達している大都市圏では、自動車そのものの価値は低下しています。革新的な電気自動車が出来ても、高い維持費をかけてあえて持ちたいという人はそんなに多くないと思います。
年配の方は、「いつかは、クラウン」というフレーズを覚えておられると思います。所有している車のランクが、社会的なステータスを示していたのですね。このような消費スタイルは「記号消費」と呼ばれ、過去のものとなりつつあります。若者の車離れというのも、この流れの象徴でしょう。
私の若い頃?、彼女とのデートはクルマというのがポピュラーでした。二人だけの独立空間が確保できるクルマは彼女との距離を近づける最適な選択であったと思います。ところが、最近の学生は、私が所属する大学の男子学生を見る限りでは、そのような目的で車を所有する学生は皆無に近いです。 女装が好きな男子学生はいるのですが・・・
このように、従来ポピュラーであった車の価値は、過去のものとなりつつあります。それでは、クルマはこれからの時代において、どのような「価値」を顧客に提供するようになるのでしょうか?
確かに電気自動車という技術革新は画期的なことですが、顧客への新たな価値提案という視点でみるとインパクトは限られています。

■ あらたなクルマの価値とは?!
そこで、重要なのが冒頭で紹介した「クルマは、モバイルデバイスになりつつある」というフレーズです。私は、これは新たなクルマの価値を提案する取り組みになるのではと注目しています。つまり、クルマ単体での価値を訴求するのではなく、”つながる”ことによって新たな価値を提案しようとする試みです。
「トヨタフレンド」で実現できているのは、ユーザー対ユーザーとユーザー対プリウスPRVのコミュニケーションだけで、活況を呈しているとは言いがたい状況だと思いますが、今後発展していく可能性は高いと思います。
たとえば、走行中のクルマの位置情報に合わせて、周辺の観光スポット・レストランなどのイベント情報・おすすめ情報を提供する、渋滞情報を受けて迂回路を提案する、近くにいる友人の情報を知らせる、などです。
最近、あるビジネススクールでこのテーマについて討論がありました。車メーカー勤務のある方は、クルマの未来として”ナイトライダー”のイメージを持たれていました。ユーザーとクルマが心の深い部分で絆を構築し、共に人生を歩んでいくパートナーのような存在です。少し翔んでいますが、夢のある話ですね。現在の車は、センサーとマイコンの固まりで”移動する高性能コンピュータ”といってもいいような存在ですので実現する可能性はあると思います。
これまでのクルマは、移動手段であり、またステータスの象徴でした。未来のクルマは、自動運転技術の進歩により、ドライビングにかける負荷はかなり少なくなることが予想されます。
その分、自由な独立空間という時間的空間的価値は高まります。運転中でも色々なことをできるようになります。閉鎖された空間を楽しむのもよし、独立した空間から外部とのつながりを楽しむのもよし、アイデンティティを持ったクルマと人生相談するのもよし・・・。みなさんは、未来のクルマに何を求めますか?
蛇足ですが、
クルマの自動走行システムが注目されています。グーグルは自動運転車を公道で走らせる実験を行っています。トヨタは、レクサスベースの自律走行車の試作車を公開しました。グーグルは、全自動運転をめざしているのに対して、トヨタはドライバーの補佐的役割をめざしているようです。興味深い取り組みですが、この件は別の機会に譲りたいと思います。

http://www.itc-kyoto.jp/2013/01/21/クルマの未来-プリウスがつぶやく-藤原-正樹/
より再掲