猫の広告

突然ですが、最近、猫を使ったコマーシャルが多いと思いませんか?
ワイモバイルのふてぶてしい顔をした猫、飼い主の女性をやさしく気遣う猫が登場する漢方薬のコマーシャル、びっくりした猫の表情がおもしろいダイハツ・ウェイク、などなどきりがありません。2015年上半期銘柄別CM好感度ランキングでは、10位中4位と10位に猫広告がランクインしているとのことです。
なぜ、最近、猫の広告が増えているのか?
私は企業と顧客の関係変化が背景にあると思っています。
顧客は、企業との関係で受け身の存在ではなく、企業と対等な立場で商品やサービスに係る能動的な存在になりつつあります。自己主張が強く、勝手気ままな猫の特性は、企業に対する顧客の”立ち位置”を表現しており、猫の広告に支持が集まる社会的背景ではないか、と思っています。
今回は、この仮説を説明します。
ちなみに、私は大の猫好きです。京都の自宅には、20年来猫が居着いていますし、大学の研究室は学生達から”猫の館”と言われるぐらい猫グッズにあふれています。
■ ネコが発するメッセージ
最近は、空前のネコブームと言われており、”犬派”と”猫派”の数が逆転しているようです。人々が、猫と犬にいだく印象を比較すると、ネコの広告ブームの背景がわかるかもしれません。
ネコの印象としては、かわいい、気まぐれ、人にこびない、自分勝手、などです。他方、犬の印象は、忠実、従順、賢い、人なつっこい、などです。これだけでも違いがよく分かりますね。
犬は飼い主に絶対服従しますが、猫は飼い主を飼い主とは思っておらず自分と対等な存在だと思っているようです。このような自由な存在であるネコをうらやましいと思う現代人は多いと思います。
ネコは、ほんとうにかわいく、見てるだけで癒やされます。しかし、生活を共にすると見た目とは裏腹に、かなりやっかいな生き物です。ネコは自己主張の強い生き物で、「そこに入るな!」ときつくしかっても、自分の意志を貫こうとしますし、マイペースで行動し飼い主の生活をずたずたにするのも平気です。この自由奔放さがたまらないという”コア”な猫ファンが多いのも事実です。
■ 企業と顧客の関係変化
猫の広告は、見た目のかわいさだけでなく、個性の強い生き物としての魅力に着目しているように思います。そこには企業と顧客の関係変化があります。
ソーシャルメディアの発展により、企業と顧客は対等な立場で交流するようになりました。企業が大量の広告宣伝により情報をコントロールすることで顧客を囲い込む、という従来の一方通行の関係は成立しなくなりました。「ものをいう顧客」は企業の商品開発やサービスにまで深く関与するようになりました。顧客参加型の商品開発、顧客がつくる商品コミュニティやアフターサービスへの顧客の関与など、ブランドや商品は企業が一方的に提供するものではなく、顧客とともに創るものであるとの認識が広まっています。
顧客が企業に”服従”する関係から、”対等”な関係へと変化しているのです。
このような企業と顧客との関係変化が”猫の広告”へ共感が集まる社会背景ではないかと思います。
■ 現代人の猫へのあこがれ
窮屈な人間関係に縛られて生活する現代人にとって、飼い主をも超越して自由奔放に行動する猫の姿は、あこがれの存在に他なりません。
意識的な企業は社会の変化を読み取り、情報統制型の顧客との関係を改め、わがままな顧客と対等に歩む道を選択しています。猫と人間との関係は、これからの企業と顧客との関係を象徴しているように思えてなりません。別の表現をすると、犬と飼い主の関係から猫と飼い主の関係への変化です。
このような新しいタイプの広告にネコが起用されていることについて、当のネコたちはどう思っているのでしょうか?是非、感想を聞きたいと思うのですが、こればかりはニャンともなりません。
<参考文献>
・内山雅恵「猫広告が示す企業と顧客の関係変化」公立大学法人宮城大学事業構想学部事業計画学科:2015年度卒業論文
・CM総合研究所. 2015年上半期 CM好感度ランキング
NPO法人ITコーディネータ京都メールマガジン2016年2月1日より転載
http://www.itc-kyoto.jp/2016/02/01/猫の広告-藤原-正樹/